昨今民藝があらゆるメディアで取り上げられ、注目されています。しかしそれが一過性のものでなく、将来にどう繋がっていくか。それは作り手だけでなく消費側もどう育つか、ということが大事に思います。そう考えると将来を担う若者は民藝、手仕事をどうとらえるか、興味深いところです。そこで、先日我々の旅に同行した学生、樫田那美紀さんにその感想を書いてもらうことにしました。そろそろ社会に旅立つことを本格的に考え始める大学3年生の目に何が映ったか。窯の紹介だけでなく、率直に感じたことを書いています。

投稿日 : 2014.9.25 記事 : 樫田那美紀 写真・ムービー:今野昭彦

熊本県荒尾市、夜は街灯も少ない静かな山間地帯に、
今回訪れた小代焼ふもと窯があります。

小代焼ふもと窯は、現在荒尾市、南関町にある小代焼の窯元12軒の中でも、特に民窯として活発に作陶に励んでいる窯の一つ。
この日窯を訪れた際も、ご主人の井上泰秋さんをはじめとする窯の作り手の皆さんに暖かく出迎えていただきました。

早速、ふもと窯で作られた湯呑でお茶をご馳走になりました。
九州はお茶の産地として有名だそうで、茶処静岡県民である私にとっては悔しいけれど確かに美味しいのです。
自分の窯で作るものは第一に自分たちで使う、そんな器の自給自足を垣間見れたような気がして、嬉しくなる瞬間。

井上泰秋さんは若くしてこの道に進み、京都で作陶を学びます。
その後熊本国際民芸館の初代館長でもあり、民芸運動の重要人物、
外村吉之介との出会いをきっかけに生まれ故郷熊本に仕事場を移し独立。
作陶歴50年をゆうに超えた現在も、息子さん含む四人のお弟子さんと共に制作に励んでいます。

手仕事フォーラム代表で、もやい工藝店主の久野恵一さんとも、
久野さんが車で全国の産地を回り始めたころからの、40年以上もの付き合い。
何度も久野さんは井上さんのもとに泊まり、気さくで明るい井上さんを慕っていたのだそう。

もちろん作陶面でも絶大な信頼関係で結ばれています。
久野さん曰く、小代焼の魅力は、奔放な釉薬掛け。その面白さは九州のみならず本州まで影響を与えているとか。その中でも井上さんの柄杓を使った釉薬がけは、自由さの中にどこか約束をきっちりと守るような規則性があるのだそう。
井上さんはたたき上げの職人だったから、つくるものはしっかりとし骨格がある、そう久野さんは語ります。



今回特別に、井上さんの作陶姿を見せていただきました。

力強く粘土を掴むと、回る轆轤に押しつけ、手のひらと指をいっぱいに使い形を作ります。
回る粘土と井上さんの手がぶつかり合う瞬間、土が音を立てて反発。
その想像を超えた荒々しさには、圧倒されます。

かと思うと、次の瞬間には繊細な両手使いで粘土の塊をみるみるうちに器に変化させていきます。


木のこてを使用し微調整。


ひとかたまりの粘土が器の形に。

力強さと繊細さが同居した一つの器ができあがる過程は、思わず言葉を失ってしまいます。


こね鉢を轆轤成形する映像です。



ふもと窯は敷地の中に工房、登り窯、釉薬を作る唐臼まで全てが揃っています。
個人窯ながら、なんと材料は全て自家製。

売店の二階には、井上さんが今まで作られた作品はもちろん、自ら収集された貴重な古小代も展示されています。

ふもと窯の登り窯。この地域の中ではとりわけ巨大で立派。

釉薬をこねるための唐臼。残念ながら訪れた日は水不足で稼働しておらず。

土の配合も全て自家製。なんと土がこうして敷地内の庭におもむろに置いてあります。

日も沈んできた訪問の帰り際、窯の皆さんで記念撮影。
そのわずかな時間にも、久野さんと井上さんの間には冗談が飛び交い、笑いが起こります。

井上さんや九州の精力的な作り手の方の多くは、身体の調子が悪かろうが、気分が落ち込んでいようが、
笑いだけは忘れはしないのです。
旧友、久野さんと井上さんの温かい掛け合いを見て、その笑いのエネルギーが、
作陶のエネルギーと無縁なはずがないな、とふと気づきました。

工房の外を出るとあたりは真っ暗。

井上さん「あっムササビの声が聞こえる」
訪問者皆で、そっと耳を澄まします。
大自然のど真ん中にあるふもと窯。
全く別の世界に来たような、それでいて懐かしいような。そんな場所でした。

あの時井上さんの手で形作られた粘土たちが、これからどんな姿に成長するのかな。
ちゃっかり親心を蓄えた私は、ふもと窯の皆さんに手を振りながら「また来ます」と思わずつぶやいていました。

樫田那美紀
樫田那美紀
静岡在住の学生。
柳宗悦の著書との出会いをきっかけに民藝に興味を持つ。学生のうちに多くの手仕事の現場を見たい知りたいという想いから現在絶賛勉強中。

小代焼はこちら。まだまだ取扱いは少ないですが、今後増やしていきますので、ご期待下さい。


アーカイブ

第一回 小代焼 ふもと窯
第二回 小鹿田焼 ここは皿山。大分の秘境へ
第三回 星耕硝子 北の大地で出会う 煌く手仕事
第四回 読谷村北窯、学習帖
第五回 読谷村北窯 松田共司工房へ

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