「窯元をめぐる旅日記」の学生ライター、樫田那美紀さん。今回は沖縄にいくことになりました。

投稿日 : 2015.3.3 記事 : 樫田那美紀 写真:樫田那美紀

沖縄へ。

飛行機で約三時間、ついにきました。
二月の中旬、この日は穏やかな日差しに恵まれ、ほんのりと暖かく過ごしやすいです。

写真は訪れた齋場御嶽(せーふぁうたき)からみた沖縄の海

実は私、沖縄は修学旅行以来の二度目。
でも今回の旅(大学の春休み真っ只中です)ではあの時見ていた沖縄の全く別の姿を見ることになりました。

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もやい工藝代表久野恵一さんの先導で、
読谷村の北窯にある松田共司さんの窯へ足を運びました。

予習をした際写真で眺めていた工房をこの目で直接見た時の興奮。
(→前回の記事はこちら

(※上の写真は一昨年に撮影した写真です。)

横に長い平屋は、まさに「工房」。
沖縄の赤瓦を使用した、壮観な作りです。

松田さんは広い窯場を丹念に案内してくださいました。

こちらの窯は同じ北窯で一緒に作業する四名(松田共司・宮城正享・與那原正守・松田米司)の共同窯です。使用する薪は琉球松だそうで、窯にぎっしりと積まれていました。

こちらは土置き場。

この土を水臼にかけ、手でひとすくいずつ(!)瓦へ移し、日に当てることで水分を飛ばします。

手の油やタンパク質が土を柔らかくしてくれるそうで、きっと想像以上に大変です。
手で触れるだけで土が変わる、なんて思ってもみませんでした。

印象的だったのは「土にも性格がある」というお話。

「この土は頭はいいけどいじわる、こっちは優しいけどちょっとばかなんだよね」

そういって松田さんは笑いました。

そんな土の性格をみながら、器にしやすいように時には「土殺し」と呼ばれる土を寝かしたり叩いたりする工程を行うこともあるそうです。
土が素直になると 作業する時に疲れにくくもなるのだとか。

(ちなみに土にも一つ一つ名前があるそうで松田さんが教えてくれたのですが、100%の沖縄弁で私には聞き取れず。沖縄弁はまだまだ難しいです。)

さらには気候の変動が多い沖縄。
台風の日は野ざらしになった土や瓦をどうするのか、をお聞きすると、
「逆らわない。頑張らないことだね」
とこれまた笑って一言。

瓦が飛んでも土が荒れても、次の日にひたすら直す。
決して自然には抵抗せず、受け入れる。

自然の恵を得ながら器を作ることは、自然とひたすら向き合うことなのかもしれません。

「土と人間は似てるね。」

そんな松田さんの一言は、何十年もひたすら土と自然と向き合ってきた松田さんにしか言えない言葉だと思います。

しかしだからこその苦難も。

沖縄の海はまさにサンゴ礁の密集地帯。
むしろ沖縄という島自体が大きなサンゴ礁といってもいいくらい、沖縄の土にはサンゴが含まれているのです。
しかし現在沖縄本土の開発が進んだことで、海、自然の状況が刻刻と変わり、
サンゴが取れにくくなっているそう。
松田さんの「海の汚れは陶器の汚れになってしまうんです」
という言葉が、私にとって衝撃的でした。

その土は決してその土地にただ存在するわけではなく、海、さらにはもっと遠い見果てぬ地までとも繋がって、敏感に、その影響を受けている・・・。

自然と深く繋がっているやちむん。
そんな器を大切に使うことは、実は自然を想うこと、問い直すことにも通じているのかもしれません。

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工房に戻り、作陶風景を見せていただきました。

さっきまでの松田さんの温厚なまなざしが一変。
真剣な目で、土、ろくろに向かって、ぐっと入り込みます。

松田さんの手の反り方も長年の手仕事の賜物でしょうか、土に不思議なくらいぴったりと添います。

あっという間に、見事な八寸皿を完成させてくださいました。

周りで誰に見られていようと、一旦ろくろに向かうと「かぼちゃやじゃがいもにしか見えない」と笑う松田さんの言葉はきっと、冗談なんかじゃないのかもしれません。

そのくらい、こちらが圧倒されてしまう気迫がありました。

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「沖縄らしさ」ってなんだろう。
沖縄で過ごした日々、ずっとそんなことを考えていました。

私は沖縄に来る前、沖縄のやちむんについて「あたたかさ」と表現していました。
確かに器からは独特の大胆さ、明るさ、あたたかみか感じられます。

でも、松田さんの作陶姿を見せていただいて、
少し意識が変わったのです。

松田さんのろくろに向かう姿の、鋭くピンと張り詰めた緊張感。

真剣な表情、なみなみならぬ集中。

温かい人になるには、それだけの努力と忍耐が必要なように、
やちむんを手にした時の私たちの心に宿る「あたたかさ」の背後で、
それをしっかりと支える太い太い芯がある、そんなことを教えていただいた気がします。

松田さん、ありがとうございました!

樫田那美紀
樫田那美紀
静岡在住の学生。
柳宗悦の著書との出会いをきっかけに民藝に興味を持つ。学生のうちに多くの手仕事の現場を見たい知りたいという想いから現在絶賛勉強中。

アーカイブ

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第二回 小鹿田焼 ここは皿山。大分の秘境へ
第三回 星耕硝子 北の大地で出会う 煌く手仕事
第四回 読谷村北窯、学習帖
第五回 読谷村北窯 松田共司工房へ

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