もやい工藝で聞く手仕事の話 前編

投稿日 : 2016.6.7 記事 : 平野 美穂

日本全国で自ら選りすぐった手仕事の品々を取り扱う鎌倉の工藝店、もやい工藝。現オーナーであり、手仕事フォーラム代表の久野民樹さんに、moyais平野が「手仕事との出会いとこれから」についてお話を伺いました。

手仕事・民藝の道へ

  • 平野:
  • お父様である久野恵一さんが亡くなってちょうど1年ですが、民樹さんにとってどのような1年だったでしょうか。
  • 久野:
  • 父の入院中に店を継ごうと決心したのですが、亡くなる前とは全く異なる生活になりました。以前を思い出せないくらいですが、1年経ってようやく慣れてきました。
  • 平野:
  • 全く異なる業種の会社勤めから工藝店の店主になったのですから相当な変化でしょう。
  • 久野:
  • 業種もそうなのですが、とにかく環境が変わりました。これまでは仕事は職場で、プライベートは家で、とはっきりしていましたが、今は自分が育った家で母も一緒に働いているので、区別なくすべてが繋がっている感覚です。
  • 平野:
  • それは確かに特別な環境ですね。経験したことのない仕事を継ぐにあたって、お店のスタッフには何か教わりましたか。
  • 久野:
  • 改めてこれといって教わっていないかもしれません。荷ほどきと荷造りのやり方くらいです。他は実際にやりながら、です。
  • 平野:
  • この1年はお店で過ごす時間のほかに、全国の作り手さんを訪ねることも多かったそうですね。
  • 久野:
  • はい、もやい工藝と関わりのある場所にはほとんど行きました。
  • 平野:
  • 最初に行った場所はどこですか。
  • 久野:
  • 浜松で行われた展示会の搬入・搬出をして、そのまま倉敷の展示会に行きました。その後は各地域を順次回っていって、ひと通り作り手さんにご挨拶してきました。
  • 平野:
  • 小さい頃にもお父様に連れられて、各地を訪ねたことがあるとお聞きしました。
  • 久野:
  • そうなんです。いつどこへ行ったかはあまり覚えていないのですが、そういう意味では目新しさを感じることはなく、懐かしいな・・・という感じでした。
  • 平野:
  • その頃にも会っていた作り手さんは、民樹さんの成長に驚いたのではないでしょうか。
  • 久野:
  • はい。最後にお邪魔したのは小学5〜6年生の頃なのですが、特に山陰の方たちはよく覚えていてくださいました。
  • 平野:
  • その後、初めてお店に並ぶものを選びに行かれたのはどこですか。
  • 久野:
  • 九州の小鹿田と小石原です。
  • 平野:
  • 一人で窯出しに立ち合い、はじめてものを選ぶのは大変そうですね。
  • 久野:
  • 今もまだまだですが、自ら現地に赴いて選ぶことを繰り返すのが大事だと思います。
  • 平野:
  • 何度か小鹿田の窯出しに行かれて、ものを見る目が変わったという感覚はありますか。
  • 久野:
  • 言葉で説明するのは難しいのですが、良いと思うものが目に入ってくるスピードは早くなったような気がします。

手仕事の記憶

  • 平野:
  • 私の場合は30代に入り手仕事の良さに気づきましたが、民樹さんの場合は小さい頃からそういうものに囲まれて育ってきたので、美しさの基準がすでにできていたのでしょうか。
  • 久野:
  • そういう実感は特にないのですが、手仕事の良さを広めるという仕事はすんなりと受け入れることができました。
  • 平野:
  • 20代の頃から手仕事のものに興味をお持ちでしたか?
  • 久野:
  • 実はもの自体に大したこだわりがなかったんです。一人暮らしをするときも母親に渡された器をそのまま使っていましたから。
  • 平野:
  • この家(もやい工藝の二階)に住んでいた頃、使っていたもので印象に残っているものはありますか。
  • 久野:
  • 日常的に使っていたので特にこれ、というものはないのですが、リーチ・ポタリーのマグカップは気に入って使っていました。
  • 平野:
  • Discover Japanの「民藝のうつわをめぐる旅」に掲載されたものですね。私も写真で見たときから心に残っています。
  • 久野:
  • 子供の頃の印象なので、好きか嫌いかというレベルなんです。これは美しいな、と感じて使っていたわけではなくて。そういう意味では大人になってからも、そこまで深く考えて器を使ったことはなかったですね。これいいな、という感じで選んでいます。
  • 平野:
  • この1年で使う器に変化はありましたか。
  • 久野:
  • やはりこの仕事に入ってから、器がどんどん増えてきましたが、変わったという実感はないです。結婚して、自分の家庭を考えた時に「子供にどういう家庭で育ってほしいか?」を考えるようになりました。一人暮らしの時は大して料理をしなかったので外食も多かったのですが、家族で食卓を囲むときに手仕事の器でご飯を食べたい、と感じるようになったんです。
  • 平野:
  • 先日、新聞でプラスチック製のプレートを使う家庭が増えているという記事を読みました。そうならなかったのは、やはり育った環境のせいもあるのでしょうか。
  • 久野:
  • はい。子供にどういう器で食事してほしいかを考えたとき、最終的に辿り着いたのが自分の育った環境でした。
  • 平野:
  • 知らず知らずのうちに影響を受けていたんですね。
  • 久野:
  • そうかもしれません。

後編につづく。


もやい工藝
〒248-0017
神奈川県鎌倉市佐助2-1-10
電話 0467-22-1822
営業時間 10:00〜17:00 火曜休み(祝日を除く)
平野 美穂
平野 美穂
鎌倉在住
足繁くもやい工藝に通う3児の母。moyaisではFacebookやブログへの投稿を担当している。

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