歩き、見て、話す旅。第ニ回

投稿日 : 2017.9.11
記事 : 平野 美穂

現在黒木富雄さんと後継者の昌伸さんの2人が轆轤をひく黒木富雄窯。
後継者の昌伸さんは小鹿田で最も多くの注文を受けているつくり手の一人です。若い人や手仕事に馴染みのない人にも受け入れられる昌伸さんの器は「モダン」と表現されることも多いのですが、その一言では表せない味わいがあります。昌伸さんの器は特徴的なのに特別な装飾が施されているわけではなく、とても自然でわざとらしさがないのです。これはどうしてなのだろう…と考えていた時、久野恵一さんが昌伸さんについて書いた文章に出会いました。

昌伸君は現代的な子だから、森山雅夫さんのような、きれいな仕事とか、きちんとした仕事に眼がいくかと思っていた。ところが、おもしろいのは、彼の仕事にはわりと粗野な部分があるのだ。素朴性が強いのである。 これはある意味では小鹿田の本質的なつくりそのものの内実に迫っていて、案外、昌伸君は小鹿田らしさを展開できるのではないかと思う。(途中省略)
これは持って生まれたものだと思う。個性というのは自分で意識して出そうというものではなくて、生み出されていくもの。その生み出されたものの中に、それぞれが持っている気質があって、その気質の中に昌伸君の素朴性、つまりは小鹿田の非常に重要な部分を感じられる。これを大事にしていくことは小鹿田の未来に関わっていくことだと私は思う。

5年前に書かれた文章からも、久野さんが昌伸さんに大きな期待をかけていたことが分かります。現在は若手を牽引する立場となり表情もだいぶ変わってきた昌伸さん。今回の旅で、聞いてみたかった10の質問に答えていただきました。

  • 平野(以下H):
  • 何歳のときに陶工になりましたか?
  • 黒木昌伸(以下M):
  • 鹿児島の大学に行って、卒業と同時に陶工になったので22~23歳のときです。
  • H:
  • 陶工になることについて子供の頃はどう感じていましたか?
  • M:
  • 小中高と上がっていくにつれて嫌だな、と思っていました。自分の道が決まっているのが嫌で、最初の頃は仕方なくやってました。
  • 父親である黒木富雄さん。

  • H:
  • 陶工を辞めたいと思ったことはありますか?
  • M:
  • 最初は思っていたけど、だんだんなくなりました。今は楽しくて、やって良かったと思っています。
  • H:
  • 最初の頃から久野恵一さんとは関わりがあったのですか?
  • M:
  • もう1年目から「やあ」って毎回話しかけてくれて。いつもよく褒めてくれたのは、下手くそだったので、色々難しいことを言っても仕方ないとの考えからだと思います。
  • H:
  • 他の窯ではつくっていない装飾技法は昌伸さんのオリジナルですか?
  • M:
  • 三彩のカップは久野さんの提案です。
  • H:
  • 釉薬をスポンジで拭いて掛分けているというカップは?
  • M:
  • あれは自分で思いつきました。やってみたら意外と良くて。親父はそういうのを自由にやらせてくれました。
  • H:
  • 手仕事と全然関係ないのですが好きな食べ物は?
  • M:
  • カレーとハンバーグ。子供がよく食べるような物が大好きです。
  • H:
  • お子さんができて(現在2児の父)変わりましたか?
  • M:
  • うん、変わりましたね。後継者ができたことで心に余裕が生まれました。長男には「やれ!」っていうんじゃなくて、自然になりたいと思うように仕事の楽しさを伝えていきたいです。
  • H:
  • 小鹿田の中ですごいな、と思う人は誰ですか?
  • M:
  • (坂本)茂木さんと工さん、(黒木)力さん、浩ちゃん(坂本浩二さん)。自分が不器用でセンスがないので、器用に良いものを作る人に憧れます。器で最近すごいと思ったのは(坂本)拓磨がつくった飛び鉋の7寸皿。飛び鉋が二重に入ってて、その発想力や勢いは自分にはないな、と思いました。
  • 坂本拓磨さんがつくった7寸皿(写真:手しごと提供)

  • H:
  • 最近の小鹿田焼に対する評価は変わりましたか?
  • M:
  • 小鹿田に来るお客さんは若い方が増えました。昔の小鹿田は注文を受けることなんてなかったけど、今は注文が全部受けられないくらい来る。自営業なのに自分でつくるものを決められない状態です。
  • H:
  • 注文は小物が多いから大物をつくる時間がなくなっている?
  • M:
  • その分早起きして時間をつくるしかないです。
  • 作業場に置かれていた大物。

  • H:
  • これから挑戦したいことはありますか?
  • M:
  • 特別なことに挑戦するわけじゃなく変わらず仕事をこなしていきたいです。そういう意味ではあーちゃん(柳瀬朝夫さん)みたいに朝から晩まで働く姿勢を尊敬しています。でも若い子たちには、小鹿田の伝統を踏まえていれば新しいことにもどんどん挑戦してほしいです。

昌伸さんと話していて印象的だったのは、これだけ人気のある窯にもかかわらず「自分は不器用、下手」と普通に話すところです。だからといって昌伸さんに自信がないということではありません。奇をてらって何かをつくるのではなく、変わらず日々つくり続けるのが自分の道。その道を進み続けることで見えるものが確かにある。昌伸さんが誰にいわれたわけでもなく、それに気付いていることが久野さんのいう「素朴さ」や「小鹿田が受け継いできた精神」に繋がっているのではないかと感じました。

平野 美穂
平野 美穂
鎌倉在住
足繁くもやい工藝に通う3児の母。moyaisではFacebookやブログへの投稿を担当している。

トップページへ